人生の豊かさ

身の回りの事件を見ていくと、人間の生き方を豊かにするものは何かということに気づかされる。

その豊かにするものは、自分のことよりも、相手に幸せになってもらいたいという思いだと確信する。

自分の存在は、自分のためだけにあるのではない。

今年あった事件の一つは、私の父親が亡くなった。

家族からすると、家族を犠牲にして公のために尽くしたという思いがある。

一言で言えば、自分なりに思うように生きたという印象である。

肉親からすると、本人が好きなように生きられたというのは一番ありがたい。

何故ならば、それを支えたのは家族だという自負もあるからである。

もし父親が、飲む、打つ、買うというように自分のためだけに家族を犠牲にしたならば、父親を恨むのは当然である。

しかし、父親が他人を幸せにしようと頑張っているなら、家族を犠牲にしても救われると思う。

何故なら、その父親を支えているのは、家族だからである。

家族にとっても、自分のことより、他人のためを思う父親に幸せになってもらいたいからである。

最近の事件で言えば、アフガンで亡くなった中村医師とそのご家族である。

中村医師がアフガンの地で助けたのは、アフガンの市民である。

ご家族からすると、危険な地から日本に戻って、平和の地から支援活動を続ければよいという思いである。

しかし、中村医師が選択されたのは、直接的な支援であった。

中村さん本人とって、死ぬまで思いを貫徹できたから、幸せだったと思われる。

ご家族にとっても、氏の幸せな人生を支援できたことは納得がいくであろう。

また、氏も自分の道を見守ってくれた家族に感謝してきたと思う。

人間の生き方を豊かにするものの他の側面は、家族の間の信頼感である。

これは、そう簡単に熟成されない。

最初は、家族を見捨てて勝手なことをするとう反発が生まれる。

家族が、時間をかけて本人の活動を理解し、その活動の成果を目の当たりにし、本人の熱き思いを少しずつ理解する過程で、信頼感は熟成される。

その信頼感なしに、人生は豊かなものにならない。

人間というのは不思議なものである。

死の直前まで、信頼感に支えられて、相手のことを思って生きている。