風に聞け何れか先に散る木の葉

夏目漱石の「思い出す事など」に出てきた句です。

  風に聞け何れか先に散る木の葉

漱石修善寺で生死の境をさまよい、一命を取りとめたとき、今まで漱石の胃病を診ていた病院の院長が息をひきとった。

死ぬはずの自分が生きて、生きて、患者の命を救うべき院長が死んだ。

ひとの命が木の葉なら、それをいつ落とすか決めるのは、吹きすさぶ風である。

戦場で、敵の銃弾にあたるかあたらないかを決めるのは、神しかいない。

死に臨んだとき、じたばたせず、自分の命を天なり神にまかせるしかない。

オーヘンリーの「最後の一葉」の場合、木にぶら下がる一枚の葉は自分の命でしたが、漱石の葉は、木にまだたくさんぶら下がっている。

風は一どきに何枚もの葉を落としていく。

ただ、悲しいかな。

人間は死ぬまで、自分の葉がどれだかわからない。