紅葉が山から平地に降りてきている。
朝夕の空気も冷たくなっている。
秋の暮の感慨を蕪村は「限りある命のひま」と詠んだ。
こんな素敵な言葉はない。
今回の言葉は、蕪村の句である。
日の出の時刻が遅くなり、日の入りの時刻が早くなる。
空気が冷たくなると、夜空の月も冴え渡る。
秋の夜長は物思いに耽る時間が長くなる。
周りの自然も、紅葉も散り始め、樹木は冬の準備を始める。
人間だけが、命の限りを感じるひまもなく、慌しく人生を駆け抜ける。
古来の日本人は、自然の中に自分の一生を感じ取った。
四季は際限なく繰り返すが、命はその繰り返しの何回かを楽しむだけである。
その泡のような人生の寂しさを味わう「ひま」も、自然が与えてくれた恩恵である。
それを逃がす手はない。
古来の日本人は、もののあわれを自分の情感とともに文学として言葉に残した。
その情感は、日本人の普遍的な感性として未来に引き継いでいかねばならない。
蕪村の句は、その情感を味わうきっかけとなる。